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-その4-
名人のつくるコンニャクは、
とても美人だった。
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ここ吾北村は、コンニャクの里としても有名だ。
その名人がいると聞いて、柳野(やなぎの)という地区を訪ねてみることにした。
柳野は、国道439号線沿いにある山の集落。その名人、筒井富喜さん(76才)の家は、車も通らぬ山の中腹にあるという。
途中に車を置いて、えっさかほいさかと山道を歩く。これがなかなか、とんでもない急斜面なのだ。
「ありゃまあ、私は20kgばあの荷物を担いで、週2〜3回は降りゆうですぞね」と、筒井さんに笑われるほどの疲れよう。
筒井さんは驚くばかりの健脚の持ち主でもあるのだ。
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筒井さんがコンニャクを作り始めたのは、いまから13年ほど前からのこと。
このあたりは、昔からいいコンニャク芋が取れるところで、集落の女性たちにとってコンニャクづくりはあたりまえのことだったのだそうだ。
「ここのこんにゃく芋は、よそのと比べると丸く、ひしゃげた形をしておって、
ひとつの玉にようけ実が付くし、味にコクがあるがですわね」と、筒井さん。一見、ごつごつした無骨な芋が、おいしいコンニャクとなるのだ。
「けんど、これがなかなか時間がかかる仕事ですらぁね。
芋を煮るにも時間がかかるし、そばがらの灰汁(あく)をつくるのが、また、難儀。
そばがらを何日もお日さんに干して、つきっきりで気長に焼いて灰にして、それをまた、くたくた気長に煮るんです」
真っ白な灰が透明な灰汁になる。この灰汁づくりこそが、コンニャク名人といわれる所以でもあるのだ。
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「そばがらの灰汁でつくったコンニャクは口ざわりがやさしゅうて煮いても固とうなりません」
ぷりっと、それでいて柔らかな食感。見た目もなめらかでツヤツヤと光っている。
これが、なかなか美人のコンニャクなのである。
「この味を知って待ちよってくれるお客さんもおる。私はそれが嬉しいし、ほんで、やめれん」
その待っていてくれる人たちのために、筒井さんはこの山道をコンニャクを背負って駆け下りる。
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「私の足が丈夫なのは、この道のおかげですわね」
と、笑う筒井さんのなかに山に生きる人たちの強さを垣間見たような気がした。
その気候や風土を当たり前に受け入れて生きる柔軟さと強さだ。
それはこの吾北のコンニャクのなかにも、れっきと生きているように思えた。
山道を下りながら、風土が生んだ産物は、その土地の人柄でもあるのだと思った。
便利さに甘やかされた苦労知らずの膝が、がくがくと笑っていた。
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(平成9年発行 吾北村村勢要覧「ほのぼの吾北」より)
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